[Vol.10 鉄道事業]PDCEを整備したところにはこの10年で1発も落ちていない。-株式会社 小田急エンジニアリング 電気部 様

「PDCEを整備したところにはこの10年で1発も落ちていない。身内の小田急だけでなく、鉄道の仲間たちに本当の避雷針を自信をもって広めていきたい」

株式会社 小田急エンジニアリング 電気部 様

(PDCE避雷球販売店・取付認定工事店) 

小田急電鉄さまにおけるPDCEの設置状況
【導入製品:PDCE-Junior Marine(408基),Magnum‐Marine(4基)】

多摩川橋梁を渡るMSE(60000形)、通称ロマンスカー。ビーム上に取り付けられているのがPDCE Junior-Marineだ

[株式会社 小田急エンジニアリング]

小田急グループにあって、以下の4事業分野で安全・快適な鉄道インフラを支えている。
①電気事業(鉄道電気設備などの施工ならびに維持管理) 
②軌道事業(線路設備などの設計・施工ならびに保守)
③車両整備事業(鉄道車両の整備・工事・修繕)
④設計・コンサルティング事業(鉄道施設などの調査・設計・監理ならびにコンサルティング)



本社社屋と建屋頂部に設置されたPDCE -Junior

お話を聞かせてくださった
電気部長 山村和幸 様.

東京交通短期大学で教壇に立つこともある
鉄道電気設備のレジェンドである

大きな輸送障害となった、多摩川鉄橋への落雷

2013年8月12日、多摩川鉄橋を走行中の電車付近に落雷

 それまでにも都心の高架区間を中心に雷害はありましたが、2013年8月12日18時35分に和泉多摩川~登戸間を走行中の電車の付近に落雷があり、その影響により電車を動かすための機器の一部が損傷。運休1本、最大遅延103分が生じ、お客さまに大変なご迷惑をお掛けしました。誰もがスマホという情報機器を持つ時代に、「小田急線の列車に雷が直撃した瞬間をとらえた映像」はYouTubeで一気に拡散され、同映像は夜のニュースでも放送されました。

架空地線に代わる落雷対策を模索していた最中に

 鉄道の落雷遮蔽に用いられることが多い架空地線(※)ですが、元来、小田急電鉄さまは、架空地線を張らない思想です。(※) 雷撃時に電線路を保護するために設けられる裸電線。電線路の上方に張り、先に雷が落ちるようにしている。架空地線の雷電流は、大地につながる電線からアースする   必ずしも架空地線に雷が落ちるとは限らず 電線路の電線へ直接雷撃されることもありますし、架空地線上の落雷箇所を発見するのが困難なのです。放置すると最悪の場合、切れて垂れ下がり、列車への接触や電気事故を引き起こします。電線路の電線には、電車へ電気を供給するき電線(直流1,500ボルト)や駅や信号機・踏切用の配電線(交流6,600ボルト)の他、変電所間を結ぶ送電線(交流22,000ボルト)と多くの種類があり、設備されている場所も異なります。よって、架空地線を張ること自体をリスクと考えています。
 当時の小田急電鉄 電気部長さまは、PDCEという新しい避雷針の情報を得て、架空地線に代わる落雷対策として導入に向け動いていました。雷を「落として逃す」には限界がある。「落とさせない」避雷針で備えるということです。
 私は、これまで変電所の建設工事に携わってきましたが、2013年の夏は落雷の影響により変電所の保護装置が動作し停電が頻発していました。変電所が停止すれば、電車は運転できなくなります。自分が手掛けた多くの変電所が、またみんなで管理に努めてきた変電所が運転できなくなり電車を止めてしまうことは、とても気持ちが重かったです。
 8月12日の落雷は、そんな矢先の鉄道物損事故でした。

落雷が多い区間にPDCEを続々設置

和泉多摩川駅~登戸駅区間にJunior‐Marine 26基を設置

 再発防止策としてPDCE以外にはなく、被害のあった多摩川橋梁と高架橋区間に26基のJunior‐Marineが導入されました。この機種は振動に強く、始発から終電まで列車走行に伴う振動にさらされる線路に適しているためです。続けて成城学園前駅~喜多見に32基、豪徳寺駅~経堂駅に58基、経堂駅~千歳船橋駅~祖師谷大蔵駅に97基と、高架橋区間を中心に設置しました。

億円単位の被害となった、片瀬江ノ島駅付近の落雷

 落雷が多かった高架区間の整備が終わったころ、片瀬江ノ島駅の地上区間、信号機械室付近に落雷がありました。2017年7月18日14時13分のことです。
 電子連動装置が焼損し、藤沢駅~片瀬江ノ島駅間の運転が見合わせとなりました。電子連動とは、駅構内で車両の進路をコンピュータ制御し、列車の衝突や脱線を防ぐ装置です。軌道回路装置、列車運行管理システム、列車無線設備等も焼損していました。装置の交換を実施し、18時35分には上下線で運転を再開しましたが、受けた損害は億円単位です。早急にPDCE Junior‐Marine 7基と、大型のMagnum‐Marineを設置しました。

小田急電鉄さまにおけるPDCEの設置状況

※駅ホーム部の上家部分への設置は一部なし

「販売店になって、世に広めていこうよ」

実績を重視する鉄道会社にも、“新しい避雷針”を勧められる!

 弊社では、PDCEのしくみに合点がいっていたことはもちろん、製品を分解し構造や強度を確認していました。そして実際にPDCEを設置した区間に雷は1発も落ちていない。PDCEという新しい避雷針を、身内の小田急電鉄さまだけではなく鉄道の仲間たちにも広めていこう、落雷で電車が止まる事案をなくしたいと、会社は新規事業「PDCEの販売・設置」の立ち上げを決断しました。 
 鉄道は長大な電気回路です。そこで培った弊社の[確かな技術力]に、PDCEの設置で先行した[現地調査][設計][保護の提案][見積]の力を併せたワンストップが強みとなりました。

設置例)
アコルデ新百合ヶ丘、新宿ミロードなど

新製品開発につながった、箱根登山鉄道 大涌谷駅への導入

 製品の10年保証といいますが、公共性の高い鉄道に施工するということは、黙って30年でも40年でも耐用する品質と安全性が必要です。我々はそういう慎重な施工・管理に努めてきました。それはPDCEでも同じです。複線・複々線化で上下に線路が走っていたり、すぐ隣を他社の線路が走っていたり、ネジ1つ落とせない場所で終電から始発までの深夜のうちに工事を完了します。周辺住民の皆さまにご迷惑をお掛けしないよう、工事で出す音にも細心の注意を払っています。最後は電動工具ではなく手締めするなど、音への配慮が丁寧な仕事につながっている面もあります。

 それでも、安全性を担保できる設置が難しいケースがありました。箱根ロープウェイ(現 小田急箱根)さまの大涌谷駅への設置です。この場所は火山性ガスが出ており、加えて風速60メートルを超える日が年間で何日もあります。既存のPDCE製品では難しいと判断、落雷抑制の松本社長に相談しました。

 結果、火山性ガスなど環境の悪い場所で問題なく使用できるよう、材質をSUS316Lにした「PDCE スーパー316」が生まれました。強い風対策として、製品の下電極に落下防止のUボルトが取付けられました。

箱根ロープウェイ 大涌谷駅に設置されたPDCE

鉄道工事の難しさを知るがゆえに、時宜を得た提案

 鉄道会社さまは、被害が出なければ予防にまで予算を取るのが難しい面もありますが、PDCEを1から設置するのではなく、列車無線のデジタル化のタイミングで同時に工事するなど、他社さまに対し同業だからこそできる提案があります。西武鉄道さまは信号機器室近傍にある列車無線アンテナ用パンザーマストの頂部へPDCEを設置され、京成電鉄さまは駅への落雷による輸送障害をきっかけに、2019年に7カ所設置され、以降も順次導入されています。別の鉄道会社さまも、これまで避雷器や碍子保護装置と架空地線で備えてこられましたが、大きな輸送障害を起こした落雷を機に次年度はPDCEの設置を準備されています。

当社による営業提案資料(イメージ)

鉄道、建設現場、商業施設、工場…広がる導入先

各社の『安全報告書』に掲載。喜ばれているのだと思う

 JR福知山線脱線事故以降、鉄道各事業者は毎年『安全報告書』を作成し公表することが義務付けられました。これを見れば、輸送の安全を確保するために各社が取り組んでいる実態やその状況を知ることができます。小田急電鉄さまのほか、例えば京成電鉄さまの2022年版では1ページを割いて、写真付きで落雷対策の実施を報告してくださっています。

 実際、私どもが整備をお手伝いした区間には1発も落ちていませんが、報告書で公開してくれていることに、私どものご提案が役に立っているのだな、喜ばれているのだな、とありがたい気持ちになります。

(導入事例)京成電鉄様    

「ネギ坊主ね」  鉄道業界ではすでに親しみが

 横のつながりが強い鉄道業界で、新しい避雷針の“布教活動”を続けてきました。「雷を呼ばないネギ坊主」として、今では新規開拓せずともご相談が舞い込むようになりました。
 小田急グループの商業施設のほか、建設現場や工場にも導入いただいています。最近、あるウイスキー工場に設置されましたが、私どもから営業を掛けたわけではなく、お客さまが雷を呼び込まない落雷対策についてよくご存じでした。世の中が変わってきているのだと感じました。

(導入事例)
レール運搬クレーン

支持管の形状について意見交換する
小田急エンジニアリング 山村電気部長と
落雷抑制システムズ 営業開発担当の松本賢

(写真提供:株式会社 小田急エンジニアリング様 / 取材日:2024.12.13)